キリスト伝  

第7章 終章

過越の年祭り

144.
彼の3年の伝道もとうとう終わりに近づいた。そして過越の大きな年祭りのシーズンが巡ってき
た。
その頃は二百万人から三百万人の人々がエルサレムに集まってきたと言われている。
彼らは、国の歴史の当初に始められた祝いの行事を守るために、パレスチナのあらゆる地方
からだけでなく、海外やアブラハムの子孫が散っていったすべての国々から集まってきた。
彼らが集まった動機は様々であった。
ある者は由緒ある機会の記念に応えて深い宗教的な喜びと荘厳な考えでやってきた。
またある者は、遠い地に親戚や友人たちから遠く離れて住んでいるため、彼らに再会すること
が主たる目的であった。
彼らの人種の持ち前の熱意をもって一儲けたくらむものも少なからずいた。そして広場が大変
広かったので重要な商売が企画されていた。
しかしこの年には、ただならぬ興奮に満ちた何十万ものひとびとがいた。彼らは以前聞いた驚
くべき徴を何か見られると期待して都に登ってきたのであった。
彼らは祭りの間にイエスを見ることを望んだ。そしてイエスよってどのようなことが起きるか多く
の漠然とした予兆を思い描いていた。
彼の名は道路にそって群がる巡礼の団体や、小アジアやエジプトから来る船の甲板でユダヤ
人のグループの間でもっとも頻繁に口伝えで広まった。
疑いもなくイエスのほとんどの弟子たちも同じであって、彼の栄光を隠していた謙遜の装いを
かなぐり捨てて国民の前に現れるという熱烈に培ってきた望みを持っていた。そして何かあら
がうことのできない方法を用いて救い主であることを示すであろうと思っていた。
イエスが最近時を過ごした国の南部から数千の人々がきていたが、彼らもイエスが最初の年
の終わりを過ごしたガリラヤで行われた彼に関する熱狂的な情景を期待していたに違いない。
そして疑いもなくガリラヤの群衆もそこにいた。彼らはイエスがなにか新しいことをするのでは
ないかと深い興味を持って喜んでイエスに近づいた。
イエスを決して見ることはできないがイエスのことを聞いていた、もっと離れた土地からも何万
もの人々が、そこにいけばイエスに会えるかもしれない都に到着し、新しい予言者の奇跡を
見、説教を聞く機会を喜んでいた。
同様にエルサレムの権力者たちも非常に複雑な感情でもってイエスの到来を待っていた。
祭りの間に何かのきっかけでイエスを捕らえる機会とすることを彼らは望んだ。しかし彼が憐
れみを施した地方の人々を従えてその地の頭として現れることを恐れずにはいられなかった。
  
国民の最後の反対

145.
過越の祭の六日前に、イエスは彼の友であるマルタ、マリヤとラザロがいたベタニヤに到着し
た。そこは都から30分ほどのところで反対側にオリーブ山の頂があった。
そこは祭りの間泊まるのに便利であったので、弟子たちと共に泊めてもらうことにした。
儀式は木曜日に始まった。それで前の週の金曜日にそこに到着した。
最後の20マイルの旅に非常に多くの巡礼の群衆が同行した。彼は彼らの関心の的であった。
彼らはエリコで盲目のバルテマイが癒やされるのを見たが、その奇跡は彼らの間に極度の興
奮を巻き起こした。
彼らがベタニヤに到着した時、その村は最近ラザロが甦ったことで沸き返っていた。彼らはエ
ルサレムの隅々まで、すでに到着していた群衆にイエスがきたことを伝えた。
  
シュロの聖日

146.
次いで、安息日が過ぎるまでベタニヤで休息してから、彼は日曜日にエルサレムに向かって進
んだ時、村の通りがは群衆で埋め尽くされているのを見た。その一部は金曜日に彼と一緒に
いた一行であり、また一部は途中彼の奇跡を見、エリコから彼に着いてきた人々であった。ま
た一部はイエスがすぐ近くにきていると聞いてエルサレムから彼を見に来た人々であった。
彼らはイエスを熱狂的に歓迎し、「ダビデの子にホサナ。主の御名によって来た方に祝福を。
いと高きところにホサナ!」と叫び始めた。
それは彼がこれまで避けてきた救い主であることの提示であった。
しかし、今や彼はそれを容認した。
恐らく彼は彼へ払われた心からの尊敬に満足されたのであろう。そしてもはや自分がいかなる
存在であり、それを彼らが信じるように求めることを国民の前に隠しておけない時が来たので
あった。
しかし、彼を王の姿にしようとする民衆の願望にまかせたが、どのような意味でその栄誉に同
意したのかを誤ることなく示した。
彼は、弟子たちをロバの子を連れてくるために派遣した。弟子たちはロバの子に上着をかけ、
彼はそれに乗って群衆の先頭に立った。
公然と武装したとか軍馬にまたがってきたのではなく、質素な平和の君として彼はやってきた。
行列がオリーブ山を越え、山を下っていき、ケデロン川を横切り斜面を登って神殿に至る道の
通っている町の門に進んでいった。
進むにつれて群衆は膨れあがり、膨大な人数の人々があらゆる街角からそれに急速に加わ
った。叫び声はますます大きくなり、行列する人々はシュロやオリーブの枝を折り、勝ち誇って
それを振った。
エルサレムの市民たちは戸口に走り寄り、あるいはバルコニーから見下ろした。そして尋ね
た。「この人は誰か?」それに対して、行列者は同郷者の誇りを持って答えた。「この人はナザ
レの予言者。イエスだ。」
事実、それは完全に同郷者のデモンストレーションであった。
エルサレムの人々はそれに少しも関わらず、冷たく傍観した。
権力者たちはこれが何を意味するか知りすぎるほど知っており、憤怒と恐怖を覚えていた。
彼らはイエスのところにきて従う人々を静かにさせるよう要求した。そうしないならば、駐留して
いるローマの守備隊が、皇帝への反逆行為であるとして町を罰するであろうと脅した。









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